不適切な印象操作「朝鮮半島緊迫 敵基地攻撃に高い壁 北の防空網突破不可欠」

産経新聞
2017年4月14日
朝鮮半島緊迫 敵基地攻撃に高い壁 北の防空網突破不可欠

産経新聞は、装備的な面と法的な面で日本には敵基地攻撃能力がない、と主張している。

現状の自衛隊は既に敵基地攻撃能力を保有

 敵基地攻撃能力をめぐっては3月末、自民党安全保障調査会が早期の保有検討を求める提言を安倍首相に提出した。そもそも自衛隊の現有装備で北朝鮮に打撃を加えることは「全く不可能ではない」(航空自衛隊関係者)。F2戦闘機に加え、空中給油機や空中警戒管制機(AWACS)をすでに保有しているからだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170414-00000092-san-pol&pos=1

産経新聞がこの部分で述べている通り、日本の自衛隊は既に敵基地攻撃能力を保有している。にもかかわらず、産経新聞は「敵基地攻撃に高い壁」と評している。しかし、その根拠はこじつけに等しい。

日本が単独で北朝鮮の基地を攻撃を前提としている

 しかし、防衛省関係者は「現在の態勢では特攻隊に近い状態になる」と証言する。敵基地攻撃を行う場合、北朝鮮軍の防空網突破が不可欠。レーダー施設を無力化するためには電子妨害機や対電波放射源ミサイルを導入しなければならない。
 空自は衛星誘導爆弾(JDAM)を保有しているが、目標にレーザーを照射して命中効率を上げる爆撃誘導員の育成も必要だ。防衛省は新たに空対地ミサイルを取得することも視野に入れる。
 米軍の協力が得られなければ、偵察衛星も自前で用意しなければならず、衛星情報でミサイル熱源を特定するためのデータベースも一朝一夕に整備できない。巡航ミサイルが取得できれば護衛艦の火器管制改修などで対応できるが、衛星利用測位システム(GPS)で誘導するため移動式発射台を捕捉するのは難しい。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170414-00000092-san-pol&pos=1

日米安保条約が有効で日本がまさに攻撃を受けているのに米軍の協力が得られない前提を想定することは、国家戦略上も無意味といえる。日米安保条約第5条は日本が攻撃を受けた時に米軍が協力することを定めている。

第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html

これを踏まえない「米軍の協力が得られなければ」という前提は不適切な印象操作という他ない。

日本は法的に反撃できないというのはミスリード

 法的な壁も決して低くない。防衛、外務両省関係者は「現状では核ミサイルを撃たれても防衛出動できない可能性がある」と口をそろえる。自衛隊が個別的自衛権を行使して敵基地を攻撃できるのは、北朝鮮によるミサイル発射が「組織的、計画的な武力行使」と認定される「武力攻撃事態」に限られる。
 核ミサイルが1発のみで第2撃、第3撃の動きがなければ武力攻撃事態と認定できない可能性もある。核ミサイルの発射は国家による行為と推定できるため「組織性」を認定できるが、「ミスで撃ってしまった恐れもあり、継続的に武力攻撃を行う『計画性』が認定できない」(防衛省関係者)からだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170414-00000092-san-pol&pos=1

「1発のみで第2撃、第3撃の動きがなければ」という事態に現実性がない。
核・非核問わず、日本が北朝鮮に対して何ら武力行使していない段階で、北朝鮮が日本に対してミサイル攻撃を行うとすれば、在日米軍に対する攻撃か日本に対する攻撃を米軍などによる北朝鮮攻撃を抑止するための脅迫以外にない。
いずれの場合も「第2撃、第3撃の動き」があってはじめて意味をなすため、そのような動きのない事態はそもそも想定する必要性に乏しい。
仮に「第2撃、第3撃の動き」がない場合があったとしても、そのような場合に敵基地を攻撃することに意味がなく、専守防衛とも言えない。実質的には報復攻撃であり、憲法に違反し、国連憲章の「個別的又は集団的自衛の固有の権利」をも逸脱する。
「第2撃、第3撃の動き」がある場合は、明確な「武力攻撃事態」であり産経新聞記事のような法的な壁は存在しない。

「「ミスで撃ってしまった恐れもあり、継続的に武力攻撃を行う『計画性』が認定できない」(防衛省関係者)」というのはありえない想定

日本に対してミサイル攻撃が行われた場合、それがミスか否かに関わりなく、外交的な抗議が行われる。それに対して相手国が明確にミスと認め、謝罪と再発防止を約束するなどがあれば、ミスだとみなせるがミスであるとも公言せず外交的抗議にも反応しない場合は、意図的な攻撃であったことを十分に推認できる。
その後「第2撃、第3撃の動き」があれば、「ミス」ではないことはほぼ確定でき、第一撃で人的被害が出ていれば、そのような推認を国民も国際社会も日本が「武力攻撃事態」と認定することを咎める可能性はほぼない。

現状の法的規制は十分に機能できるものであり、諸外国と比べて異常に厳しいわけでもない。軍事関係者は法的規制を必要以上に緩めようとして主張することが多いが、報道機関がその主張をそのまま検証もせずに垂れ流すのは、悪質な印象操作という他ない。


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